エマティな揚水水車1号機
大旦川揚水水車

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(^_^):まいど〜〜〜!
このページは漫才形式でおおくりいたしております。なぜこういう形式をとっているかをまだご存知でない方は先に

エマティ誕生秘話


なにわ君誕生秘話

エマティな水車設計

をご覧ください。
またいろいろ技術用語が出てくるかもしれませんが、インターネット上のことですので、適当に検索すれば、他所のサイトでいろいろなレベルの説明がありますので、ここではなるべく説明をしない方針にしております。
わからない単語はみなさんご自分で適当に調査してください。
(・_・):思いっきり手え抜いとるな。

◎今回の御題

排水路に流れる水を畑に汲み上げるための揚水水車です。
参考として、福岡県にある朝倉三連水車と比較してみます。
項目 設計値 単位 朝倉三連水車 備考
流入水量 0.6 m3/s どう見ても2m3/s以上 水量少なすぎでっせぇ。 
揚程 1.7 同じくらいでしょう  
揚水量 0.089 m3/s 約0.1m3/s(3台合計)  

流し掛けで、残り0.5tの水で約0.1tの水を1.7mも持ち上げるってそりゃ無理でっせぇ。

検討終わり。







(・_・):またんかい、こら!
(・_・):でけへんならでけへんなんりにお客さんに説明できるような資料を作らんかぃ!
(^_^):しょうがないとりあえず検討しましょう。

で何度か潰れかけながら、ひつこく打ち合わせをしているうちに、すぐに大旦川に放流するところなので、落差は1m以上取れるということになりました。
そこで、こんな水車になりました。



たぶん水力のみを利用した揚水水車では1機あたり日本最大の揚水量でしょう。
ひょっとすると現在世界一かもしれません。
風の便りでは、2003年度は動いていたらしいです。

設置場所は
山形県村山市
市役所から西に約1.5km、大旦川の南側の護岸にあります。

村山市のサイトではまったく触れられていないですねぇ。
空港から車で10〜15分という遠くから見学に来るには結構便利の良いところですし、観光案内に載せてもよさそうなものなのですが。

ではどうして実現させたかということですが、

◎機能の分離

駆動水車と柄杓水車の2台を使って機能を分離しました。
通常、揚水水車は1台の水車に羽根板と柄杓を両方つけます。
この場合当然水車が1つで済むので、コスト的に有利です。

2つに分けるというアイデアは、私自身はこの引き合いが来る前にお会いした南木曾の原さんという水車大工さんからおうかがいしたのが最初です。
その後もう10年ほどお会いしていないのですが、まだご存命でしょうか?
(・_・):電話の1本もかけたら済む話やろが!
(^_^):リストラされて、名刺ももうないし、以前ネットで調べたけどみつからへんかったんや。
(独自のサイトはまだお持ちではないようですが、木地師の里・木工芸品店の原製作所さんだと思われます。)

社内の前任者の報告書の中に、お会いするより前に分離するというアイデアの書かれた報告書があったので、まあ昔からあるアイデアなのかもしれません。
原理的にもエネルギーの有効利用を突き詰めていくとこうなりますし。

で、なぜ2つの方が有利かと言うと
1つの水車の場合は回転方向からどうしても、水車の下流側の水を汲み上げてしまいます。

したがって、下に落ちた水を、わざわざ汲み上げていることになります。
揚水効率を上げようとすると、落ちる前の上流側の水を汲み上げた方が有利であるのは間違いないでしょう。

通常下流側の水を汲み上げていても問題ないのは、水車1機分の落差がそれほどないから、というのも大きな理由です。
今回の場合、本来なら1.7m持ち上げるだけで済むのに、
1mも落ちた水を2.7m持ち上げると、単純計算で約60%も余分にエネルギーが必要です。

◎駆動水車の直径

取水口と、大旦川の最高水位の関係から、落差(河床で比較)を1.25m、水車の直径は5m(突起部を除く)ということになりました。
水車を大きくすると軸の位置が高くなります。
必然的に水を不必要な高さに持ち上げてしまうので、水車は必要最低限の高さまであげることができるなら、小さいほど効率が良くなります。

◎回転数

回転数が速いほどたくさんの水が汲めますが、遠心力によって、落ちにくくなり、樋に入らなくなりますので、あまり速くはできません。
朝倉の4mの水車は8rpmでまわっているようですが、樋を飛び越えていく水が結構ありそうな気がします。
とりあえず、6rpm程度を目標にしました。
水車の周速は5m×3.14×6rpm/60min=約1.5m/sです。

◎駆動水車の幅

川が曲がっていると、カーブの外側の流速が速くなり、内側は遅くなることは学校で習ったと思いますが、まっすぐな水路に流れる水の速度も場所により異なります。
単純にいえば、河床と壁に触れているところはその抵抗のため速度は0m/sで、離れれば離れるほど速くなります。
じゃあ、水路の真ん中の水面が一番かというと、
水面の流速は空気抵抗を受けるため、少し遅くなります。
よって、水路の真ん中の水面より少し下のところが最も速くなります。

抵抗を少しでも少なくするためには、壁や河床にあたる部分が最小になるように設計します。
数学的には
水路幅:水深=2:1
というところを狙います。

駆動に使用可能な水量は流入量から揚水量を引いたものなので、
0.6-0.089≒0.51m3/s
水は水車とほぼ同じ速度で流れると仮定すると
断面積=0.51÷1.5=0.34m2になります。
きりのいいところでは

水路幅 水深 比率 備考
0.75 m 0.45 m 1.65   
0.80 m 0.425 m 1.88   
0.85 m 0.4 m 2.13  

で、0.85と0.80で迷ったところですが、壁と水車の間をすり抜けていく水は水車より速いので、平均流速は羽根の速度より速くなり、断面積がこの想定よりも小さくなると考えられるので、水路幅0.8を採用しました。

使用する水は畑の間を流れてきて、本流に注ぎ、用水路としては最下流です。
ちょっと増水すればいろいろなゴミが流れてくることは間違いありません。
水車と水路壁の間もできるだけ間隔をあけておきたいところです。
が間隔をあければあけるほど、その隙間を流れていく水が増え、水車の羽根に当たる水が減り、効率が低下します。

最低限として、5cmあけることにしました。

よって水車の幅は0.8m-0.05m×2=0.7mに決定です。

◎柄杓の大きさおよび数

揚水量と回転数から、柄杓の総容積が決まります。

柄杓の総容積=0.089m3/s×60sec÷6rpm=0.89m3

柄杓が回るときには当然水の抵抗が発生します。
水の抵抗は形状および速さが同じであれば、水を切る断面積と切る回数によって変化すると思われます。

断面積を小さくすれば、抵抗は減りますが、容積が小さくなります。
数を少なくすれば、抵抗は減りますが、揚水量は少なくなります。
数を多くすれば、揚水量は増えますが、円周上に収まりきれなくなり、限界があります。
深さを深くするのは、円周上に収まりきれなくなり限界がありますし、水が樋に落ちきらなくなるかもしれません。。

最終的には最初の写真ような形になりました。
横からの図面を見ると何かの蛹みたいです。
柄杓寸法図

工夫したポイントとしては

○外周がほぼ円に沿うようにした。
水の抵抗を減らすためです。

○外周にそって、できるだけ長い柄杓になるようにした。
少しでも容積を稼ぐためです。

○後ろに行くほど少しずつ絞るようにした。
これは、柄杓の後ろに渦が発生するのを抑え、また次の柄杓に水が入りやすくするためです。

○汲み上げ始めた時に中に入っている水の容積と樋に排出し始めるときの水の容積が等しくなるように口の形状を工夫した。
途中でこぼれてしまう水を汲み上げてもしょうがないからです。

○柄杓が水につかるときに中に空気が溜まらないようにした。
お風呂で、バケツや桶を逆さにして、沈ませたことがおありでしょうか?
沈めようと思ったら、かなりの力が必要です。
空気を沈めるということはその容積の水を持ち上げるとの同じだけの力が必要になります。
少しでも揚水するためにはこういう無駄が生じないようにする必要があります。

柄杓軸芯から池の水面までは約1.35mあります。
周長は
1.35×2×3.14=8.5m
水車の柄杓を8個つけるとピッチは約1.1m
10個つけるとするとピッチは0.85m
12個つけるとすると0.7m
になります。

柄杓と柄杓の間はいくらかの間隔をあけておきたいところです。
なぜなら、柄杓が水につかっているのは角度にして80度
回転数は6rpmなので、1回転に約10秒かかります。
10÷360×80≒2.2秒
浸かり始めて、出てくるまで2秒とちょっとです。

入り口が狭いと、柄杓に汲みきれなくなるという心配があります。
柄杓が深いとその分入りきりにくくなります。
柄杓の幅を0.6mとして何枚も絵を描いてみたのですが、10個つけると、どうしても容量が不足します。

最終的に8個としました。

2秒で深さ0.9m、水量約0.1tの水が柄杓に入るのかと、ずいぶん心配しました。
が、結果的には問題なかったようです。

また、池の水を水車がかき回して、エネルギーのロスが大きいかも、と心配していたのですが、上記の工夫しておいたせいか、それほど流れを発生していません。
柄杓の形状についてはこんな形で良かったのではないかと思います。

◎水路の形状

水路に流れる水は、ゆっくりなほど抵抗が少なくなります。
水深は好き勝手に決めることはできません。
したがって、なるべく水路幅を広く設計したいところです。

○まず用水路は十分な川幅があり、ゆっくりと水は流れてきます。
水深は約0.5mです。

○水路に直角に取水口を設けます。
流れの向きが急に変わるので、やりたくないのですが、しょうがないです。

○取水用の水路における水の断面積は
0.6/0.5=1.1m2
とりあえず流速を1m/s以下にするために、水路幅を1.2mにしました。

○取水口にはスクリーン(ゴミを取るための格子)とゲート(取水をとめたりできるようにするもの)を設けます。
スクリーンの格子の分だけ断面積が減少するので、取水口の幅は1.5mと少し広くしました。

○水車入り口部分で、水路を0.8mに絞る必要があります。
単純に横方向を絞るだけでは水が流れにくくなるので、掘り下げながら絞ります。
掘り下げ量は切の良いところで、0.2mにしました。
これで、水車の羽根の速度と、水の速度がほぼ同じくらいになって、流入します。

このとき水より羽根の速度の方が速ければ、羽根が水を押すことになり、せっかくつけた勢いを殺してしまうことになります。
その逆に水の速度の方が速すぎると、水が跳ねて、力がうまく伝わりません。
ほぼ同じ速度にするということを心がける必要があります。

で、製作を始めることになったのですが、えらいことに気がつきました。
水路は土木工事ですので、±1cm位は誤差があるでしょう。
水車も直径5mもあるわけですので、±5mm位は誤差があるでしょう。
羽根と河床の間に最悪65mm位は隙間ができる場合が考えられます。

水量が少ないときに水車の羽根に当たる水は約3m/sの速度があります。
図面上水車の羽根と底との隙間は最小5cmです。
0.8×0.065×3=0.16m3/s
までの水量のときは水は水車の下を何の抵抗もなくすり抜けてしまい、水車はまったく回らない可能性があります。
最大流入水の1/4以上流れてこなければ羽根にかすりもしないということです。

また少々羽根に当たっても0.1t近い柄杓を同時に3個近く持ち上げるだけの力がないと水車は回りません。
これでは水量が仕様の半分以下だと回らない可能性があります。
自然エネルギーの利用は常時100%の入力エネルギーがあるとは限りません。
というかない方が普通で、よほど特殊な好条件がそろったときのみ100%になると考えるべきものです。
これでは流量不足で時間的にはほとんど動かない水車になってしまう可能性があります。
そこで、水車の羽根と輪板にゴム板を取り付け隙間を10mmにしました。
ゴムにしたのは、ゴミが流れてきたときには曲がり、水圧だけのときはその力を受け止めることができるようにという配慮です。

以上を反映するとこうなります。

設備配置計画図
実際の状況は少し異なります。
これは家に持ち帰って検討していたときのものです。
会社を辞めてしまったので、最終的な図面は手元にありません。

高さ関係計画図
同じく計画図です。

◎設置後の感想

良くぞ回ってくれました!
(・_・):おぃおぃ
(^_^):理論的には回るように作ったつもりですが、ど素人ゆえ、抜けてるところの10や20はあるかもと思っていたのですが。
(・_・):こらこら

通常フェンスの外から見下ろしますので、小さく見えますが、下から見上げると結構大きいです。
最初の写真はほぼ限界の速度で回っているところですが、幅50cm、壁高さ30cmの樋からあふれているのも迫力があります。
なかなかやりがいのあった仕事でした。

◎次回の改良点

とりあえず動いたのですが、次回作り直す場合に向けて、
(・_・):いつの話やねん。
(^_^):金物で20年後、構造物もので50年後くらいでしょうか?
(・_・):もうお前死んどるやろ。
(^_^):せやから今のうちに後世の人に伝えとくんやがな。

○落差
今回は下流の大旦川の最高水位を基準に決めたのですが、こここまで水位が上がるということはかなりの雨が降っているということになります。
水車の目的は灌漑用水ですから、、大雨が降っているときは揚水する必要はありません。
よって、水が引いた後に不具合が残らない程度に、もっと落差をとっても良かったと思われます。
軸の高さは変えずに、水車の直径を0.5〜1m大きくしても問題ないと思われます。
ただし、トラックで運べる大きさに限度がありますので、分割数が増え、かなりコストアップになると思われます。

○柄杓の外観形状についてはほぼ限界です。
・とりあえずお勧めは、口の部分についている水切りですが、幅110を50くらいにしても良いと思います。そのほうが水を吐きやすくなります。

・柄杓の幅についてはもう10cm広くすることは検討する価値があると思います。
当然水中での水の抵抗が増えますが、揚水量を増やせます。

・柄杓の深さを深くすると、用水量は増えますが、柄杓が上に上がったときに、今以上に水が落ちにくくなります。

・柄杓の高さを高くする(直径を大きくする)と柄杓の容積は増えますが、柄杓は傾いて汲み上げますので、汲み上げるときの水量はほとんど増えません。(水の抵抗が増えるだけになります)

・柄杓の数を増やすと、水の抵抗がその分増加し、また、後ろをより急に絞る必要があり、そこでも抵抗が増えると思われます。

下の写真の水面から少し上がったところの柄杓(赤丸)ですが、水がこぼれています。
まったくこぼれないようにすることは不可能ですので、どうせこぼれるなら、さっさとこぼれた方が良いので、ここでこぼれるのは良いことなのです。
青丸のところは後述するゴムの板を取り付けたところです。



下の写真は樋の右の柄杓(赤丸)が少し水を吐き始めています。
理想を言えばもう少し我慢をしてもらいところなのですが。(^_^;)
逆に、樋の左の上の柄杓(青丸)がほぼ吐き終わりなのですが、少しこぼれ始めています。
柄杓の位置的・角度的にはもういじりようがないでしょう。



○樋は幅50cm深さ30cmとしているのですが、結構こぼれています。
がこれ以上深くするわけにもいかず、L字にしているところを、幅を広げて四角にするぐらいでしょうか?

○樋の傾斜を5度にとっています。
少しでも早めに水を吐き、柄杓からの水を受け取りに行くためなのですが、これはほぼ水平にしても良かったかもしれません。

○柄杓と樋の間隔を50mmとったのですが、樋を大きくして間隔を20mm程度まで狭くしても良いかもしれません。

○初期の段階で、自動車の通る道を横断するために、揚水は地下をくぐらせることになっていたのですが、結果的に放水路が水車のすぐそばに来ているので、開水路にしたほうが良いでしょう。

○取水口のスクリーンは広ければ広いほど良いです。
実際に運用を始めるとすぐに枯葉とかで詰まってしまいまうことがわかりました。
少々詰まっても良いように幅を2mでも3mにでも広げた方が良いようです。

○駆動水車の輪板の有無ですが、これは未だに悩んでいます。
本来流し掛けの水車は、朝倉三連水車の様に輪板がありません。
輪板は上掛け水車の様に、水車の羽根に入った水が逃げないようにするためのものです。
流し掛け水車の場合に輪板を設けると周りをすり抜けていく水が利用できないので効率が低くなります。
最初はすり抜けた水のエネルギーはあきらめて、輪板の内側に来た水のエネルギーだけは有効利用しようとしてデザインしたのですが、最終的にゴム板を取り付けて、すり抜ける水量を少なくしたため、輪板は板である必要性はなくなりました。(前後の羽根をつなぐという意味で、何らかの部材は必要)
今度私がまた作るなら、輪板無しでデザインしたいところです。

なるべく正しい情報をご提供しようとは思っておりますが、間違ったことを書いているかもしれません。(汗
誤字脱字を含めまして、間違いがございましたら、ご指摘いただきたく、よろしくお願い致します。m(_ _)m

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